出産のために入院した病院で、
「これは教えてもらえるものなのかな?」
と不安になることが、いくつもありました。
怒られたわけでも、きついことを言われたわけでもありません。
ただ、教えてもらえないまま過ごす時間が多くて、
それが少しずつ心を落ち着かなくさせていました。
入院前の相談で何を聞いていいのかわからなかった
入院前の相談のときも、同じような戸惑いがありました。
「入院について何か質問はありますか?」と聞かれたのですが、
相手がどんな役職の方なのか、
どこまで決められる人なのかといった説明は特にありませんでした。
そのため、
何を質問していいのか、
どこまで希望を言っていいのかが分からず、
結局あまり聞けないまま終わってしまいました。
食べ物についても、
アレルギーの有無や希望があるかは聞かれましたが、
そのときは「特にありません」と答えました。
あとになって知ったのは、
事前に希望すれば、おにぎりに変更することもできたということです。
母子同室で、片手でも食べられるように、という配慮でした。
何を提供できるのか、
どんな選択肢があるのか。
それが具体的に示されていなかったので、
こちらから希望を出すことができませんでした。
一日の流れがわからず、落ち着かなかった
まず、一日のスケジュールを教えてもらえませんでした。
何時ごろに何をするのか、次は何があるのか。
聞けば教えてもらえたのかもしれないけれど、
産後で頭も体もぼんやりしていて、
「今って、何をする時間なんだろう?」と、
毎回そわそわしながら過ごしていました。
決まった流れを知っている看護師さんたちにとっては、
説明するほどのことでもないのかもしれません。
でも、外部から来た人間には、その“当たり前”がわからない。
それだけで、知らない土地に放り出されたみたいな気持ちになります。
知らずに買い続けていた水のこと
授乳室には、無料で飲めるお水が用意されていました。
でも、そのことを私はずっと知りませんでした。
毎回、自販機で水を買っていて、
ある日、マイボトルに水を入れている人を見て初めて知りました。
「ここ水飲めたんだ……」
誰かが悪いわけじゃない。
ただ、知らされていなかっただけ。
それでも、ちょっと置いていかれた気分になりました。
ズボンを履いていいのか、わからなかった
入院中、上に着ていたのはシャツワンピースのような服でした。
人によっては「そこまで気にしなくてもいいんじゃないの?」
そう思う長さだったと思います。
でも、私の場合は身長が高くて、
自分ではどうしても短く感じてしまいました。
ズボンを履いていいと言われなかったので、
「履かないものなのかな」と思ってそのまま過ごしていました。
出産後、はじめて授乳室に行ったときのことです。
ほかの人たちが普通にズボンを履いているのを見て、
そこで初めて、
「え、ズボンって履いてよかったんだ……」
と知りました。
恥ずかしかったし、
同時に
「ズボンを履いていない人は、新入りなのかな?」
と、どこか冷静に察している自分もいました。
悪意はないけど、不安は残る
どの出来事も、
誰かに責められたわけではありません。
怒られたわけでも、注意されたわけでもない。
ただ、その場所では当たり前のことを、
私は知らなかった。
知らないまま過ごす時間は、
思っている以上に心を疲れさせます。
「それなら先に教えてほしかったな」
今でも、そう思います。
おわりに
その場所だけのルールは、
中にいる人には見えなくなってしまうものなのかもしれません。
でも外から来た人は、
何も知らないところから始まります。
説明されなかっただけで不安になったり
恥ずかしくなったりすることがある。
あの入院中、私はそんな気持ちをひとりで抱えていました。
ほかにも説明されないことで心が折れそうになった場面がありました。
これは誰かを責めたい話ではありません。
ただ、出産という不安定な時期に
「わからないまま過ごすこと」がどれだけ心細かったのかを、
残しておきたかっただけです。
もう少し重たい話になりますが、
そのことについては、また別の記事に書こうと思います。

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